「フランスの起床ラッパ」

   『フランスの起床ラッパ』解説

『フランスの起床ラッパ』解説                 大 島 博 光

 一九五〇年頃、初めて『フランスの起床ラッパ』を読んで訳したときの、ほとんど衝撃的な 感動をわたしは忘れることができない。詩がこれほどわたしを根底からゆさぶったことはなかった。わたしはそこに、美と真実とが、詩と伝説とが、そして詩と歴史とが、みごとに結びつ き、とけあった詩的奇跡をみる想いがした。「ガブリエル・ペリの伝説」を、小さな集会などで、わたしはすすんで朗読したりした・・・
 『フランスの起床ラッパ』は、アラゴンがレジスタンスのなかで、主として一九四二、三年頃に書いた有名な詩篇を集めた詩集で、それがパリに現われたのは、一九四四年十二月であった。 その八月には、ナチス・ドイツ軍の占領による長い地獄の夜からパリは解放されていた。この詩集はたちまちひろい読者を獲得し、フランスの詩の歴史上かって見ないような成功を収めた。 詩がこのような広範な大衆に迎えられたのは、ヴィクトル・ユゴーの『懲罰詩集』以来のことだったともいわれている。
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 『フランスの起床ラッパ』は、ナチの圧制、虐殺、野蛮に抗して挙げられた、誇らかな人間の声であり、人間の尊厳と自由をもとめ、祖国愛をうたいあげた歌声である。それは孤独や絶望と闘う希望の歌である