いまここで ジャック・ゴーシュロン 大島博光訳
いまここで この地球の片隅で いま ここで 長靴の音はもう長いこと遠のいた もうきな臭い火薬の匂いもしない 空に 爆撃機の轟音もきこえない 平和に暮らしているとひとはいう 虐殺 略奪 殺戮 野蛮の激情狂気をききとるためには 世界に燃えている戦火に 耳を傾けねばならない 狼のようにそっと忍びよる戦略を見破るには 耳をそばだてて 沈黙の中をくまなく探さねばならない 戦争の予算は防衛費と呼ばれる 平和に暮らしているとひとはいう だが うつむいた顔に 震える手に おびえてしょげ返った姿がみてとれる 戦争の時代のように 街角で ひとは ぶつかる 丸くなってねている肉体(ひと)たちに そうして問いかけてくる眼なざしに 平和に暮らしているとひとはいう いまここで 平和と呼ばれるものは 恐怖による支配でしかない ひろがる不安 怖れと身ぶるいよ そうして平和はどうなるのか ひとはまったく知らない 平和な暮らしを思いのままに生きる道は