千曲川の歌──子供の頃


  

 千曲川の歌
   ─子供の頃

思い出せば 子供の頃は
世界と自分とは ひとつだった

ポプラの梢で啼く雉子鳩の
その羽根の色のような青っぽい声も

花房をつけた栗の木の下の
甘ずっぱく匂って そよぐ暗闇も

夏の河原の砂だまりの
かやつり草のかげに見つけた蟻地獄も

川っぷちの小さな洞に手をさし入れて
手づかみにした 生まなまとしたなまずも

日本アルプスの向うに沈んでゆく太陽も
夕焼けに映える 石切場の切り立った岩肌も




県道で行きずりに擦れちがった
麻袋をかついで 光る眼をしていた乞食も

雪もよいに うす青く村村がかすんで
暮れなずんでゆく 冬の野も

なま温かい南風が吹いて
夜どおし聞こえてくる 雪どけの雨滴れも

舞いあがった凧の下で
銀いろに煙っていた 川べりの猫柳も

みんな 自分とひとつだった
そこから自分を切り離すことを知らずに溶けこんでいた