雪の下に──わが父の墓に──


  

千曲川べりにきょうも雪は重く降りしきる
わたしらはいまあなたを埋めてきたばかりだ
根雪を掘りかえした凍てつく穴のなかに
あなたの棺のうえにも雪は降りかかり・・・

小鳥たちについばまれ落ちたとちの実は
小さな墓所の雪を 黄いまだらに染めて
とちの木のもと その雪の下に雪の下に
あなたは眠る 戦い倒れた戦士のように

わたしを生きさせてくれた傷だらけの手も
わたしを愛撫してくれた栗色のまなざしも
ひとのあざけりあざ笑いにも耐え抜いた
そのたくましい心も 今はすべて雪の下に

わがままな 生きるのに不器用なその息子が
おろかにも詩人などになりたいというのに
あなたはまるでそれを喜んで励ましてくれた
風に揺れるえんどうのつるに添木するように

おのれを無にして与えたその自己犠牲において
ひたむきなあなたは 名もなく偉大だった
枯れかかった林檎の若木を生き返らせ
育て上げて 吹き過ぎて行った風のように



崩れ落ちようとする古いあばらやの棟木をも
あなたはその根株のような手で支えながら
眼も見えぬ心も暗いやからからの頭越しに
はるか遠い地平や高みをもかいま見ていた

あなたが手に血を流して闘ってくれたおかげで
わたしは暗やみにも眼をひらくことができた
詩人にもなりそこねようと今わたしは知っている
あなたのなめた苦しみのその深い深い根もとを

そのまた根がわたしらにもからみついてくるのを
その苦しみの根もとをたち切り根こそぎにする
たたかいの道へとすすみ出てゆくことこそが
あなたの愛と手本にこたえる道だということを

あなたはひとこともそれとは口にも出さずに
おろかな息子 わがままな息子たちのうえに
あの千曲川べりに煙るひろい春のような
しあわせがやってくるのを願っていたのだから

あなたはいまもなお わたしを雪の下から
はげましつづける 「詩はできたか」と
あなたの墓にそなえるわたしのことばは
おお ただひとつ 「父よ ありがとう」
        (一九六一年三月)